16年ほど前、僕がまだ生まれてなかった頃、やまんばの家の前には古いアパートがあったんだ。そのアパートの1階のおばさんが、やまんばの所に駆け込んで来た。「ベランダの倉庫の中で子猫の鳴き声がするから来てくれ、気持ち悪くて触れない。」と言うんだ。やまんばが行ってみると壊れた扉の倉庫の中で不気味な子猫が動いている。
やまんばだって気持ち悪くて触れないほど・・・・・・・・・けど、なんとか連れ帰った。
なんと目をそむけたくなるような気味悪い顔。目が飛び出しているんだ。ビー玉をくっつけたような気味悪い顔の小さな生き物が「ニャーニャー」動くんだ。・・・・・・・・・
不気味で気持ち悪いのと、やまんばの家には既に10匹程の猫が8畳のリビングで飼われていたんだ。やまんばは新聞配達、集金とやっていて、睡眠時間と言えば3時間。4時間寝ればいい方、そんな生活を送っていた。
・・・・・・・・・それに「自分の子供は放任で猫の世話に夢中になって、『かわいそうに』どうにかしてるよ。」
そう思っている人も少なくなかっただろう。・・・・・・・・・親戚からも注意を受けていた。
やまんばは深く反省し「これ以上増やさない!」 肝に銘じた矢先の事だった。
母猫に返せば、無残な死を迎えるのは目に見えていた。・・・・・・・・・
そこで、やまんばが思いついたのが『安楽死』だった。・・・・・・・・・心を鬼にして決断した。
病院の先生は優しい方で首を横に振った。
やまんばは、なぜか「あ~よかった。」心の何処かでホッとし喜んだ。
家に連れて帰ったものの目をそむけたくなるような気味の悪い1ヶ月足らずの子猫・・・・・・・・・
・・・・・・・・・ 『うちで飼ってやったら』 お爺さんに声をかけられた。
この無責任な一言で「猫禁止!」の鎖がほどけた。 この無責任な一言に感謝し、救われた。
案の定、やまんばは三時間おきのミルク、病院の先生の指導のもと目ヤニの手当て、寝ずに新聞配達に出掛けたことも何度かあった。「必ず目が見えるようにしてやるんだ。」と夢中になっていた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・が
1ヶ月も過ぎた頃、飛び出した目はだんだん小さくなって、しぼんで行きなくなったが干からびた目の奥には眼球はなかった。 そして、タラちゃんは両目、りょうちゃんは片目を失った。
りょうちゃんとタラちゃんの目の話はこれで、おしまい!
『追伸』
タラちゃんは「人間なんかの世話になるもんか!お前なんかの世話になるもんか!母ちゃんの所へ返せ!」とミルクを飲もうとせずやまんばを困らせたんだって。 女の子なのにさ『座頭市物語』の猫バージョンだよ。
僕、タラちゃんが庭に出て来ると怖かったもの。ポコちゃんもペコちゃんも、みんな逃げてたよ。あのゴンジョウでさえ一目おいてた。 あの迫力、近づけなかったよ。 目が見えないのにさ。
りょうちゃんはと言うと、目が見えた時、最初に目にしたのがやまんばだったから、やまんばをお母さんだと思っているんだ。おじいさんのくせに今でもやまんばに、くっつき虫なんだ。 やめてくれ! おかしいよ。
りょうちゃんも、あたいも太っていた頃。やまんばったら、あたいのこと『タラ餅コーロコロ』って転がして遊ぶんだ。
「楽しかったなー。」
「ほら。りょうちゃんだって、あくびしてるでしょ!縁台は気持ちよくって眠たくなるんだよな。」
「あたいは、どこでも寝れちゃうんだ。」玄関に置いてあったダンボール箱でしょ。
「木陰でお昼寝、格別に気持ちいいんだ。心地よい風と日光と・・・・・・・・・」
「階段、夏はここが一番涼しいんだ。」
りょうちゃん。先輩猫の、ののちゃんと縁台でお昼寝。
「あぶない。あぶない!こんな所で寝ちゃってた。」
「13年前のりょうちゃんだって! 以外と可愛いじゃん!」
『頑張ったね!タラちゃん。 凄いよ!』
『 お ち ま い 』
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